「って、言ったんだぜ父さん!」
「あらあら」
「それになんかカッコつけてたし。カッコ良かったけど! あの時はそういうのはよくて」
「ふふ、私も見たかったなぁ。カッコつけてたロキ。あの人、私といる時なら甘えん坊さんなのに、貴方達の前ではカッコイイお父さんでいたいみたいだしね」
「「母さん/お母さん、ちゃんと聞いてる!?」」
「聞いてますよ〜」
父とファフニールを見送り、家へと帰った兄妹は用意していた晩御飯を食べながら、先程の父への文句をたれていた。それをシギュンはニコニコとしながら、ロキの惚気を呟きながら聞いている。
そんなふわふわとしている彼女に、兄妹はジト目で見つめる。
「母さんは、父さんの過去を知ってるのか?」
「うーん。知ってるようで、知らないかな」
シギュンは表情を変えず、ニコニコと答える。
「お母さんにも言ってないんだね、お父さん」
母にさえ話さない父の過去。その事実を聞き、ナルは大好きなデザートの林檎を齧りながら唸った。
「もしかして、私達迷惑だったのかな」
悲しげな声で出した言葉に、ナリも心当たりがあるのか「父さんも、そうなのかな」と少し落ち込んだ表情を見せる。
そんな兄妹に、シギュンは「そうかも、ね」と先程のふわふわとした表情は消え、真剣な表情で兄妹を見つめながら話す。
「過去ってね、大切な人だからこそ知りたくなるもの。好きな人の事はとことん知りたいじゃない? それは仕方がないこと。なんだけれど、ね。大切な人だからこ知って欲しくないのも過去なの。ロキや……私も。ナリなら、エアリエルさん。そして、仲の良いホズさんも。皆、別に貴方達に意地悪をしているんじゃなくて、貴方達に悲しい顔をしてほしくないから、言わないのよ。それだけは、分かっておいてね」
母親の少し影のある笑みを見て、兄妹はもう何も言えず、ただ頷くしか出来なかった。
◇◆◇
夜も更け、明日のために部屋へと入っていたナリ。しかし、彼はいまだに眠りにつけていなかった。それは。
「ねぇ、兄さん」
「ん?」
どうやら彼女も同じなようだ。
「どうした?」
「あの、一緒に寝てもいい?」
ナルは扉を開け、恥ずかしいのか少しだけ顔を出しながら、そうナリにお願いをした。
「あぁ、いいぞ。……おいで」
愛する妹の願いを無下にする兄など何処にいようか。
ナリは優しい笑みを浮かべながら自分の位置を少し奥に移動し、彼女が入れるスペースを作ってやった。
お願いを聞き入れてくれた事がそんなに嬉しかったのか、ナルの表情は夜だというのに太陽のような明るさになりながら、兄の開けた寝台のスペースへと身体を潜り込ませる。
「ふふふ。ありがとう、兄さん」
「礼なんていいって。……で?」
「ん?」
「ん? じゃなくて。何か話したいから来たんじゃないのか? それとも寂しくなったからか?」
兄からの問にナルは「どっちも、かな」と話す。
「お母さんの話を聞いて、お父さんとお母さんの過去を知りたいと思ってたのに、聞くと悲しくなってしまうなら聞きたくない。でも、距離をとられているようで……寂しくなっちゃった」
そう話し終え、ナルは兄の胸へと顔をうずめる。
「ねぇ、兄さん。私達は……間違ってるのかな」
「……間違ってなんかねーよ。母さんだって言ってたじゃねーか。過去を知りたくなるのは仕方がないことだって。……でもまぁ、母さんが言った事に反論するならさ」
「うん」
「別に同情とか、そんなんがしたいんじゃなくて。ただ、その相手の全てを受け入れたい。だから、聞きたいんだ。共有したいだけさ。……今のままだと隣に居るのに、居ないみたいな感じがするな、俺は」
ナリは妹の頭を優しく撫でながら、自分の思いも明かした。
「まっ。幸か不幸か、今回は父さんからふっかけたんだ。俺が勝って、父さんの事聞き出そうぜ」
気を落とした顔であったナリであるが、すぐにニカッといつもの笑顔で喋った。
ナルは「そうだね」と笑顔で頷き返すも、「あー、でも」と何か引っかかることでもあるのか、ボソリと呟く。
「なんだか不公平だし、私も父さんと戦おうか」
「えっ!?」
「ほら。二対一なら」
「ナールー! 今回の戦いは俺がバルドルさんに勝てたから出来る念願の真剣勝負なんだぞー! お前のそういう生真面目なとこ嫌いじゃねーけどよー」
ナリがぶつくさと不満を垂れ流すと、ナルは「ふふっ」と笑った。
「冗談よ、兄さん。兄さんがずっとその日を楽しみにしてたのは知ってるんだから」
「……おう」
「だから。これからは怪我する程鍛錬したらダメだからね? 当日乱入するから」
「結局、昼の話に戻るのかよ……」
そうして互いに大笑いをしながら「おやすみ」と言い合い、二人は寂しさを互いで埋め合わせながら、眠りについたのであった。