2篇 生きる繋がり3


「「あっ」」
「あっ」
「おーう、兄妹じゃないか。久しぶりだなぁ」
 日が落ちかけ兄妹が家へ帰るため、エアリエルとユグドラシルの森への入り口まで見送ろうとした所。
 その道中で、大きな酒樽を首から下げたファフニールとその背中へと乗り込もうとしている父、ロキの姿であった。
「ファフニールさん、お酒臭いですわ」
「おう、結構飲んできてなぁ。すまんすまん」
 ファフニールは既に顔面が真っ赤にできあがっている。どうやらここに来るまでに相当飲んだのだろう。よく飛んでいる途中で寝落ちなかったものだ。
「ナリ、ナル。今から帰りか?」
「おう。父さんとファフニールさんは今からどこ行くんだよ」
「さっきまでわいが一緒に飲んでたとこさぁ。飲み相手が連れて来いと仰るから」
「ってなわけで。今日は帰らねぇから。いや、帰れないが正しいのか。朝まで帰らせてくれなさそうだからな」
「会うのは久しぶりだしのぅ。定期的に会ってやらんから、そこら国一帯が噴火しっぱなしだ」
「そんな寂しがり屋だったか、アイツは?」
「……その、今から飲む方ってお父さんとはどういった関係なの?」
 ナルにそう聞かれたロキは唸りながら「ボクの深い知り合い」と、濁しながら話した。その表情から察するに、どうやらめんどくさい相手のようだ。そんな彼の話を聞き、ナリは少しだけ考えてからナルと顔を見合わせて、「なぁ」と、上機嫌なファフニールの背中へと乗り込もうとしていたロキへと話しかけた。
「なんだよ」
「俺/私も行きたい!」
「無理」
 ナリの願いにロキはより一層顔をしかめながら、その「無理」に「頼むから絶対に来ないでくれ」といった強い拒否の姿勢が見えた。
「即答かよ!」
「というか。なんで行きたいんだよ。別に楽しくねーぞ」
「……だってよ」
 ナリが顔をうつむかせながら、隣にいるナルと目を合わせる。目が合ったナルは微笑みながら縦に頷いた。それを見たナリも同じように微笑みながら頷き、いつのまにかファフニールの上で頬杖をついているロキを見上げる。
「俺達さ、さっきフレイとフレイヤに昔話を聞いたんだ。まだ、神族がただの神族じゃなくアース神族とヴァン神族に分かれていた時代」
「今の神族になった戦いに、お父さんがいた事を聞いたの。二人共、お父さんが巨人族なのに炎の魔法が使えることに驚いてた。私達も、なんでお父さんが炎の魔法を使えるのかは深く知らないから」
「まず俺達、ちゃんと父さんの事知らないからさ。前にヨルムンガンドに聞いてもつまらない時代だったからで済まされちまったし。だから――」
「そいつんとこ行ったら、酒の勢いで何か聞けると思ったか?」
 ロキの言葉にナリは肩をビクリとさせる。どうやら図星であったようだ。そんな彼に「単純バカ」と兄妹に笑いかけ、自分の手に炎を浮かべる。日が落ちていき薄暗くなる空間に、その炎はとても幻想的で鮮やかな赤と橙を灯している。
「ヨルムンガンドの言うように、つまらない時代だった。ボクの過去だって、そこまで真剣に聞いたり、探ろうとしなくてもいい価値だぞ」
「じゃあ、なんで話してくれないの?」
「っ――」
「つまらなくても、私達は聞きたいよ? お父さんは、それ以外に何か理由があって話せないの?」
 ナルはじっとロキの目を見る。そんな真っ直ぐに見られ反らせずにいるロキは「ははっ、こりゃまいったなぁ」と苦笑する。
「じゃあ、こうしよう。今日は流石に連れていけねぇけど……。ナリ!」
「お?」
 ロキは手のひらに灯していた炎を握ってつぶし、その手はナリに向かって指さす。そして、ニカッと笑みを浮かべながらこう宣言する。
「君が今度のボクとの勝負に勝てたら、ボクの過去を話してやるよ」