「怒られてしまいました」
「「「当然でしょ/でしょうね/だろうな/だろ」」」
フレイヤの部屋でお菓子やお茶を囲み、ナルはナリに頬をつねられながら、部屋にいる四人に呆れられながら言われてしまう。
怒られた内容というのは、フェンリルと共に神殿外とはいえ走り回ってしまったのが問題となり、フレイヤと合流してすぐ、追いついたフギンにこっぴどく説教されてしまったのだ。
ちなみに、フェンリルはフギンにテュールの元へと連行された。
「妾もフェンリルに乗ってきたことには驚いたわ」
「フェンリルさんに『乗れ』って言ってもらえたので、つい……。背中、とても気持ちよかっ、いでで」
ナルがフェンリルの乗り心地についてうっとりとした表情で話していると、ナリが彼女の頬へのつねりを強くさせる。
「ナ、ル! お前、全然反省してないだろ! エアリエルが傍にいたとはいえ、落っこちたりでもしたら危ないだろ!」
「ひょ、ひょめんなさい」
鍛錬場にいた時とは真逆で、今度はナリがナルの心配をしている状況の間にエアリエルが入っていく。
「まぁまぁ。ナリ様落ち着いてくださいまし。私も急ぎだからと認めてしまいましたし」
「そうよ! 元はといえば、フレイ兄様やナリが急に来るから悪いのよ!」
フレイヤがナリとフレイに向かって指を刺すと、ナリはフレイの方に目線を向け、「はーい、俺は付き添いだから悪くねーよ」とフレイにのみ責任を負わせる。二人の言葉は、正論ではある事をフレイも理解しているのか、苦い顔を見せる。
「うう……愛しい妹にそう言われてしまうと、罪深く感じてしまう。すまん」
「はい、よく謝れました」
ちゃんと謝れた兄に対し、フレイヤはその兄の頭をポンポンと叩いてから、五人分のティーカップに自作の紅茶を注いでいく。
「さっ。過ぎたことは仕方ないし。どうぞ、召し上がれ」
甘い香りを放つあたたかな紅茶は、この場にいる彼等の心に安らぎを与える。今までナルに対して心配で苛立っていた顔を、緩みきった顔にするナリにフレイヤがあの話題を持ちかけた。
「ナリ。邪神ロキと戦うことになったらしいけれど、調子はどう?」
その問いかけに、ナリは唸りながらクッキーを頬張る。
「わっかんねー。俺にとっちゃ、今がベストなんだけどよ。父さんと戦うってなったら、まだまだ足りねぇなって」
「あら。ナリらしくないわね。いつもみたく、馬鹿みたいに騒げばいいのに」
「馬鹿みたいにとはなんだ失礼な!」
フレイヤの言葉にナリは怒りが前のめりになる。そんな
姿に、フレイが大きく口を開けて笑う。
「ハハハ! それぐらいがナリにはちょうどいいってことだ。まぁ、今のままじゃ無理だろうな。奴の戦闘に関しては印象的だったから、よく覚えている」
フレイの言葉にナリは違和感を覚えた。
「なんだよフレイ。父さんと戦ったことがあんのか?」
「言ってなかったか? とはいっても、かなり昔のことだがな」
「え。でも父さん、二人のことそんな知らないって……」
「「戦ったことを忘れたのか!?」」
豊穣の兄妹が怒りをあらわにするのを抑えながら、ナルがある単語を出す。
「もしかして、それって御二方がまだヴァン神族だったときですか?」
ナルの出した単語にナリとエアリエルは首をかしげるも、言われた豊穣の兄妹は表情をパァと明るくさせる。
「ナル! もしかして貴方、妾達の事が載った文献を読んだのかしら!?」
食い気味でフレイヤに問いかけられたナルは、彼女を抑えながら「図書館で、ほんの少しだけ」と話す。
図書館にはオーディンが異世界へ行って集めてきたものや、フギンとムニンが記録として書き留めたものなど、沢山の本が貯蔵されている。ナルが見つけたものは、フギンとムニンが記録とした本だろう。
豊穣の兄妹が懐かしそうな、けれどほんの少しだけ悲しげな目をする。ヴァン神族と聞いてまだピンと来ないナリが話を切り出す。
「なぁ、ヴァン神族ってなんなんだ?」
ナリの疑問に豊穣の兄妹は呆れ顔を見せる。
「ナリも戦闘だけでなく、もう少し勉学に励んでもいいんじゃないか?」
「まっ。もう何百年も、事実上存在しない種族名だから仕方がないのだけれど」
呆れ顔と共に、また豊穣の兄妹は悲しげな顔を見せる。そんな二人の顔を見て、邪神の兄妹は出すべき話題ではなかったのではないかとお互いに顔を見合わせた。
そんな邪神の兄妹の顔を見て、豊穣の兄妹は「そんな顔するな」と申し訳なさそうな声を出す。
「といっても、妾達がそんな顔をしているのよね」
「恥ずかしい話だが。余達はこんなに時間が経っていてもまだ、自分達の種族に地位に未練を持っているのさ」