5篇 悪戯が呼んだ目醒め6


《エイワズ》

 それは、母から受け継いだお呪い(チカラ)。
 そのお呪いは形となり。
「……えっ」
 女の子を覆う白い膜となっていた。その膜は氷柱に当たり凍ってしまっているが、確かに白い膜が張られていた。
「なになにあれ。お姉さんが出した技にあのお兄さんの技が融合したの? かっちょえ!」
「……本当にバカな小僧だな」
「え? なにっ!?」
 カボチャ頭は男の事を忘れて興奮していたため、その隙に男は背後をとり、杖を奪って足を凍らせていく。カボチャ頭がどう動いても凍ってしまった足はビクともしなかった。
「小僧。あの女から奪った物を返せ」
「うぅ……分かったよ。はい」
 ようやく降参したカボチャ頭は、ギリギリ凍らされていなかったポケットからあの耳飾りを取り出して男に渡す。男はそれを受け取ると、すぐにナルの元へと向かった。
 ナルはというと、自分が口から詠んだお呪いと共に現れ、氷柱で凍ってしまった膜に人差し指で少し触れる。
すると、膜は静かに消えていき中にいる女の子の姿を見せた。女の子は何が起こったのか分かっておらず、可愛らしく目をぱちくりとさせている。ナルはその女の子の傍へと寄り添い、ここから離れるように言うと他の子供達のいる場所へと走っていった。
「おい女」
「はい。……あ」
 子供達に手を振っていたナルは、男に声をかけられたため振り返ると、その男の広げられた手に自分の耳飾りがあるのを見つける。
 ナルはそこから耳飾りを受け取り、胸でギュッと握った。
「良かった……戻ってきた」
「……なぁ」
「いやぁ! カボチャ頭が見つかって良かった良かった!」
「「っ!?」」
 またも二人の間からどこからともなく現れるエッグセール。
「エッグセールさん!? 一体どこから」
「上から」
 エッグセールは祭の光で照らされた紺色の星が輝く空を指す。その方向へナルも男も顔を向けると、そこには周囲の屋根よりも遥かに高い所にトールの台車が見えた。
「あそこから降りてきたんですか……!」
「そっ。あそこから様子を見ていたのさ。嬢ちゃんが何かを言っている姿も、変な膜が現れて女の子を助けたのもこの目でちゃんと見た」
 エッグセールはナルへと近寄る。
「あたいは魔女だから、一通りこっちの魔法は勉強させてもらった。が、嬢ちゃんが詠んだ言葉は聞き覚えがない。初めて会った時には感じなかった力の匂いもある。……さて、それがなんなのか教えてくれんか? ん? ん?」
 ナルは魔女の気に押され、一歩後ずさりする。
「エッグセール。あまり女を困らせるな」
「えぇ〜」
「……分からないです」
 ナルは弱々しくそう言った。
「分からないんです。こんなの初めてで……あの女の子を守りたいと思ったから、願ったから、祈ったから」
「感情で力が生まれると? しかし呪文は? 言葉はなんだ? 何を使った?」
「呪文というか、お呪いです」
「お呪い?」
「はい。母から教えてもらいました」
 それを聞いたエッグセールは「なるほど」と顎を触りながら、なにやらブツブツと呟く。ナルはそんな彼女を一旦放っておき、男の隣へと行く。
「今回はありがとうございました。今度お礼に」
「礼はいらん。それよりこの杖を。色々終わったらあの小僧に返してやってくれ」
「あっ、はい。……でもやっぱりお礼をさせてください。貴方が居なかったら、きっと見つからなかったと思います」
「……俺様は別に。気にするな」
「私は気にするんです」
 お互い譲らず、ジッと見つめ合う二人。
 そんな二人の元に。
「ナールちゃあああん」
 今度はトールと彼女が連れてきた神族達がやってくる。引き連れてきた神族数人はカボチャ頭の元へと行き、トールはそのまま速度を落とさずナルに抱きつきに来た。
「ナルちゃん、大丈夫だった!? 怪我はしてない? うぅ、良かったあ、本当に良かった」
「トールさん大袈裟です! 私は大丈夫ですし、怪我もしていません! だから、離してください!」
 ナルはトールの大きい背中に、離すようにと訴えるがごとく叩きまくる。
 そんな事をしている間に、男はエッグセールに声をかけ、人混みの中へと消えようとしていた。それに気付いたナルは彼等に静止の声を上げるも、その声は群衆の声で掻き消されてしまったのか、二人が止まることは無かった。

 ◇◆◇

「こんのバカ!」
「あいったっ!」
 場所は神の国へと移り、カボチャ頭の男の子のご両親、ジャック・オ・ランタン夫婦は顔を怒り顔に変えて、声もかなりの怒声を含ませていた。
「神族の方々に迷惑をかけよって! 大人しくしてろって言っただろ?」
「だって。つまんなかったんだもん」
 男の子はしおらしげにそう言うと、ご両親は首を横に振り彼の頭を撫でてやった。
「けれど何処かへ行くぐらいはちゃんと言ってくれ。な?」
「……うん」
「よし。なら、最後に迷惑かけた神族の方々に謝るんだ」
 父親は彼の身体の向きを神族の方、ナルとトールの方へとむける。
「ごめんなさい。お姉さんも、大切な物奪ってまで遊んでもらおうとしてごめんなさい」
 男の子は今までの生意気な態度ではなく、反省しきった様子で謝った。そんな彼に対し二人は「もういいよ」と優しく返した。
「こちら、お礼と言ってはなんですが……」
 と、父親は男の子と似た杖を何処かから取り出し、それを振る。すると、トールやナル、彼の捜索に関わった者達の手に可愛らしい包みが現れる。その中身を見てみると、中にはカボチャ型やお化け型、コウモリ型など。ハロウィンで有名な者達のクッキーが入っていた。
「では私達はオーディン様の元へ」
「あの、すみません。一つお願いをしてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
 ナルは去ろうとするジャック・オ・ランタン親子を止める。
「その……先程のクッキー。あと二袋頂いてもいいですか? あと二人、彼の捜索を手伝ってくれた方がいるんです」