テュールがオススメする妖精族特性ふわふわ花オムライスを食べた兄妹は、テュールと共に子供達の待つ広場へと向かう。
「「ナリ、ナル!」」
そんな彼等の目の前に、あの少々煩い二人が現われる。
「フレイ」
「フレイヤさん」
そう、豊穣の兄妹だ。
「貴方達もミッドサマーイヴの手伝いに?」
「そっ。今から子供達と一緒に花冠とかを色々と作るんだ」
「二人も何か手伝いに?」
「そうね。今回の行事に使う花の管理を任されているわ。実はね、この国に咲いている花の半分は妾達が異世界から持ってきた種から育ててきた者たちなのよ」
「そうなんですか!?」
「我々はいつも異世界に行っては妖精族の代わりに植物の種を採取しに行っているのさ」
「へぇ。アンタ等はそういう仕事してんのな。じゃあ、ここがすげぇ沢山の花に囲まれてるのもアンタ等のお陰でもあんのか」
「まぁねぇ。でも育ててくれてるのは主に妖精族だから、妖精族が頑張った賜物よ。このミッドサマーイヴの為にすごく頑張ってるんだから」
「ふむ。そろそろ行こうかフレイヤ。では、またな」
「またね〜」
そうして豊穣の兄妹は三人とは真逆の方向へと行ってしまった。
「随分彼等と仲良くなったね。ちゃんと名前で呼んでいるし」
「そうですね。そこに関しては俺達も嬉しいです」
「最初の出会いからしたら想像出来ませんよね」
笑いながら、とても嬉しそうに話す兄妹にテュールはあたたかい眼差しを向ける。
「さて。広場までもうすぐだ。子供達が待ってるよ」
兄妹はそれに対して元気よく返事し、楽しげに進むテュールの後についていった。
◇◆◇
「はーい、皆。今日一緒に花冠を作ってくれるナリお兄ちゃんとナルお姉ちゃんだよ〜!
元気よく挨拶をしようか」
中央広場にて、テュールが兄妹を妖精族の子供達に紹介する。妖精族の子供達は声を揃え兄妹に「よろしくお願いします」と言うのを見てから、兄妹達も「よろしくね」と返す。
「それじゃ、子供達の事よろしくね。おれは近くにいるから、何かあれば呼んで」
テュールはそう言い残して何処かへと行ってしまった。
そうして子供達と一緒にシーツに置かれた沢山の花達と共に花冠を作り始める、のだが。
「……」
「……」
ナルは黙々と真剣に兄が作っている花冠を、目を細めながら見る。その視線を感じ取ったナリは一旦その花冠を置く。
「……なんだよ、ナル」
「いやぁ……兄さんは、まずその不器用さをなんとかしないとね」
「むぅ」
ナリの手には、上手く輪っかが作れずぐちゃぐちゃになってしまった花が握られていた。
「だめなんだぞー、にいちゃん」
「おはなさんはだいじにしないといけないんだよー」
花冠を作っていた子供達がナリの手に握られた花達を見て、彼を叱りにわんさかと集まりだした。ナリは少々苛立ちを込めた声で、周りに集まりだした子供を引き剥がす。
「分かってるって! 今度はちゃんと作るから! 大事に作るから! だから離れろ!」
ナリがそう言うと子供達は「わ〜!」とはしゃぎながらその場から離れていった。
「兄さん、怒っちゃダメだよ?」
「へーへー」
「あら、貴方様方は……」
兄妹達が騒いでいる所に、ある妖精族の男女が現われる。
一人は真っ直ぐで艶やかな髪が似合う可憐な女性であった。そんな彼女を護衛するかのように後ろで立っている男はとても凛々しい顔立ちをしている。
ナリとナルは立ち上がり、その男女に挨拶をする。
「こんにちは。神族見習いのナリです」
「同じく、神族見習いのナルです」
そう兄妹が自己紹介をすると、女の方は「あぁ!」と何か納得した様子を見せる。
「お父様が言っていた、子供達の世話を任せたのは貴方様達でしたか。申し遅れました、私この国の長の娘シオンと申します。そしてこちらは」
「スターチスといいます。どうぞよろしくお願いします。ナリ様、ナル様」
「ねぇ、しおんさま。このおにいちゃん、おはなだめにしちゃったんだよー」
「あらまぁ」
「うっ」
シオンはナリの持つ、ぐちゃぐちゃになってしまった花冠を見て驚く。
「あはは。俺不器用だから上手く作れなくって。こんなぐちゃぐちゃなの貰っても嬉しくないでしょ」
「にいちゃん、そんなんじゃだめだぜ!」
「おとうさんとおかあさんがね、いってたんだよ! はなかざりは、たいせつなひとにあげるためのものでね、こころをこめてつくるんだよ!」
「大切な人に」
「心を込めて、作る」
「えぇ、彼等の言う通り。この花冠渡しは大切な人に想いを告げるために、言葉ではなく花を渡す伝統が出来上がったんですよ」
子供達やシオンからその花冠への想いを聞いた兄妹は、お互いに顔を見合わせて笑顔を見せ合った。
「ねぇ、兄さん。私、お父さんとお母さんに花冠作りたいな」
「俺も作りてぇ。とびっきりすげぇの! そうと決まれば、新しく花を持ってこなきゃな」
「では私達がご案内しましょう」
「ありがとうございます、シオンさん。ナルは子供達の事頼むな!」
「うん、行ってらっしゃい」
そうしてナリはシオンと花冠を作る用の花を置いてある倉まで向かう。
彼が歩くと周りに心地よい風が吹く。まるで、彼のワクワクする気持ちに同調しているかのように。
「もし」
と声をかけられた。
「えっ」
声がした方にあったのは、深い茂みの中からであった。しかし、そこには人影はなくただ昼間なのに暗い森が続くだけであった。
ナリの背中に冷や汗が流れる。
「……誰?」
そう、震え声で聞く。
「「「ねぇ、君」」」
三つの無邪気な声が聞こえた。そして――。
「「「私達が視えるの?」」」
色違いの六つの目玉は。
◇◆◇
「あっ、そうだ。兄さん! 持ってきて欲しい花が……あれ?」
「ねぇ、おねえちゃん。おにいちゃん……きえちゃった」